わたしのフェイバリット
いやぁ、ホントにかわいいよね…。
小さい頃、ピカチュウが欲しいとずっと言っていたのに父が連れてきたポケモンはそれとはまったく違うサンドだった。
サンドはピカチュウみたいに黄色くてふわふわした毛並みじゃなくって、固い毛並みだし。地面タイプだからいつだって砂っぽくて嫌だった。見た目だって、ピカチュウみたいに全然かわいくない。はっきり言って地味だ。その地味さも嫌だった。さらに、それがいつだって私の後をつけてくるのだ。当時はそれが本当に嫌だった。
そして、そのポケモンは今でも私の後をついてくる。
後ろを振り返るといつもの通り、そのポケモンはいた。
固い毛並みのねずみポケモンは進化してハリネズミになっていた。背中の固い毛並みが土色のハリになって尖っている。つぶらな瞳は相変わらずだ。学校の図鑑で読んだことがある、このポケモンはサンドパンというらしかった。
ぽてぽて私の後を今日もついてくる。
サンドを嫌がった私はいつも彼を遠ざけるように歩いていた。けれど、それでもサンドはめげずに私の後をついてきたのだ。学校に行くときだって、お友達と遊びに行くときだって、私についてきた。
でもある日、お友達と遊びに行こうとしたらサンドがついてこなくなったのだ。家のリビングにあるベッドでごろりと寝転がっている。これは好都合と思って、遊びに行く準備を整えて、家を出た。サンドはついてこなかった。
サンドがいない分思う存分遊べると思ったけれど、全然そうじゃなかった。お友達と遊びながらもずっとサンドのことばかり考えていた。後ろにサンドがいないと落ち着かない。サンドはやっぱり調子が悪かったんじゃないか、と思うと気が気でなかった。
嫌いで嫌いで仕方がないはずなのに、後ろにいないとこんなにも落ち着かない。
嫌いが一回り過ぎて、好きになってしまったみたいだった。
結局お友達との遊びを切り上げるとサンドの好きなおやつを買って、家に帰った。
そこからはずっとサンドのことを拒まずに好きでいる。進化した今は私の手持ちでは一番の古株で切り込み隊長だ。
「サンちゃん」
こっちにおいで、と両手を広げるとぴょんぴょん飛び跳ねるようにこちらへやってきて、前足の爪を折りたたみながら私に飛びついてきた。抱き返してやるとすりすり頬を私の胸にすりよせてきた。背中のトゲは心を許した者には柔らかくなるみたいで、触っても平気だ。
その固い毛並みが好き。背中に生えたトゲが好き。足に生えている爪だって格好良くて大好き。目だってつぶらで本当にかわいい。私はサンドが、サンドパンが本当に好きだ。
だから、今日も私はサンドパンと共に前へと進むのだ。
end